自宅トラップの勧め

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 バタフライトラップというものをご存知だろうか。写真のような円筒形のものだ。下には板があり、その部分と側面は5cmほどの隙間がある。この板の上にバナナやパイナップルなど、熟した時に匂いが漂うような果物を置いておくと、匂いにつられた蝶がやってきて、飛び立っても円筒形の上部には出口がないため、なかなか出られないというものだ。もちろん、これで採れる蝶には限りがある。木の樹液にやってくるような蝶がターゲットとなる。残念ながら花にしか来ない蝶には効果がないようだ。
 このトラップというのは蝶を始めた頃に教わった。ネットで直接捕まえるのも面白いが、罠をかけてそこに誘い込むというのも、なかなか面白そうなので、すぐに試してみた。最初に使用したのがいつだったのか忘れたが、期待していた割に何も採れなくてがっかりしたのを覚えている。雑な手作りだったので、一旦入っても、逃げてしまったのかもしれない。
 実際に蝶を捕まえることができたのは石垣島が最初だったと思う。今は採集禁止となってしまったが、当時はバンナ公園が屈指の採集ポイントだった。そして、その麓に広がる裏バンナという場所も、日陰を好む蝶のよいポイントとなっていた。ここは、今、きれいに整備された公園になっていて、かつての道はその公園の端にまだ残っているが、訪れる人もないまま荒れ果てている。その裏バンナにトラップを仕掛けておいたところ、スミナガシが入ったのだ。
 八重山のスミナガシは八重山亜種になっていて、珍しくはないものの採りにくい蝶だ。これが採れたのがうれしかったので、その後、よく仕掛けるようになった。だが、スミナガシは夕方にもっともよく活動する。そして、私はその時間まで頑張ることはあまりない。3時ころにはさっさと引き上げてしまうことが多く、トラップも引き上げてしまうため、なかなか獲物は入りにくい。
 けれど、そのうちにトラップを掛けっぱなしにするようになった。ほとんど人が来ないような場所がわかってきたし、エサもしばらく置いておいた方が発酵が進んで効果が増すようだと気づいたからだ。
 そうやって置きっぱなしにしておいて、時々確認しに行くと、何も入ってないこともたまにはあるが、結構、いろいろなものが入っているので面白い。リュウキュウヒメジャノメは数が多いせいかよく入っている。場所と時期によってはウスイロコノマが大量に入ったこともあった。スミナガシは期待した割にはなかなか入らなかった。けれど、竹藪が近くにないのにシロオビヒカゲが入っていたこともあった。また、夜通しかけておくので、得体のしれない蛾が入っていることもよくあった。蛾は全くわからないので、いつもただ逃がしているが、かなり大きなやつが入っていると、不気味ではあるがわくわくもする。
 そんな感じでトラップの面白さはわかっていたのだが、去年、ふと思いついて、自宅の庭にトラップを設置してみた。
 我が家は東京の杉並区にある。典型的な住宅地で、我が家の周りには、昔からの自然はほぼ残っていない。私の子供のころにはまだ雑木林もあり、コクワガタやノコギリクワガタくらい採れたのだが、今はそこの木もすべて切り倒されてアパートになっている。近くには善福寺川が流れていて、そのあたりが緑地公園となっているが、これは二次的な自然であって、昔からの自然が残っているわけではない。つまり、ビル街ではないものの、昆虫がたくさんいるような環境ではないということだ。
 それでも、蝶の姿はないわけではない。ナミアゲハやクロアゲハはよく見るし、モンシロチョウやスジグロシロチョウもいる。最近はツマグロヒョウモン、ナガサキアゲハ、アカボシゴマダラなども侵入してきて、よく見かけるようになった。(ナガサキは一時数が増えたが、最近あまり見なくなってしまった)子供のころにはキタテハやベニシジミもいたが、今はいなくなってしまった。空き地というものがなくなって、子供のころたくさんあったカナムグラやギシギシがなくなってしまったためだ。
 そんな中でトラップをかけてみようという気になったのは、アカボシゴマダラを採ってみようと思ったからだ。この蝶がこのあたりで見られるようになったのは10年ほど前からだが、初めはあまり採る気にはなれなかった。本家アカボシは奄美で採っているし、このあたりに飛んでいるのは、放蝶由来のものなので抵抗があったからだ。第一、この人通りが絶えないような場所では、ネットを振るのはちょっと気恥ずかしい。けれど、この蝶は特に春型のメスは白化が著しい。奄美で採ったものと全くちがう。今頃になって採ってみようかという気になったのだ。けれど、よく見かけるといっても、樹液が出る木などないし、ポイントがあるわけではない。ネットを持って探し回るのは、人目が多くてちょっとやりにくい。そこで思いついたのがトラップなのだ。
 去年の5月に、あまり期待しないで仕掛けてみた。すると、驚いたことに次の日にヒオドシチョウが入っていた。ヒオドシを我が家の近くで見たのは初めてだ。子供のころは蝶などろくに知らなかったので、気づかなかっただけかもしれないが、大人になり、蝶がわかるようになってからは、一度も見たことがない。つまり、いたとしても、数はとても少ないと思う。
 そして、狙っていたアカボシも入った。しかし、時期が遅かったためか、ボロくてとても標本にする気にはなれなかった。アカボシは夏になったら2化のきれいなものも入ったので、こちらは確保することにした。けれど、春型の真っ白いものではないので満足はしなかった。
 さらにサトキマダラヒカゲも入った。これは、たまに見かけることがあったので、生息していることは知っていた。けれど、しょっちゅう見かけるものではない。ふつうに歩いていて、1年に1度か2度、見かける程度だ。しかし、トラップを仕掛けたら、こいつがよく入る。夏までにのべ20頭くらい入っただろうか。ほとんど見ない蝶でも、実はたくさんいたんだなあ、と改めて気づいた。
 さらにさらに驚いたのはホシミスジが入っていたことだ。初めはコミスジが入ったと思った。コミスジならときどき見かけているからだ。ホシミスジなんてものは、山の方に行かなければ採れないと思っていた蝶だから、当然、こんな都会にいるわけがない。けれど、そういえば、どこかの都内の公園で、植栽されたユキヤナギやコデマリで発生していると聞いたことがある。場所は知らなかったが、たぶん、幼虫や卵が付いているものを植えたのだろう。それがうまいこと繁殖したらしい。そして、それと同じことが我が家の近くでも起こったのではないか?我が家の目の前には小さな児童公園があり、そこにユキヤナギがあるのだ。そのユキヤナギはもう10年以上前に植えられたものだから、そのときから気づかれずに細々と生き延びてきたのか、最近になって近くの公園からやってきたのか、とにかく飛び古した個体ではなかったので、このユキヤナギで発生したものと思われる。これに気づいてから、とくにユキヤナギのあたりには気を付けて見ているのだが、その後、ホシミスジは入ったことはないし、見かけたこともない。やはり、たまたま発生したものであって、数は極めて少ないと思われる。
 ルリタテハも入った。これも以前見たことはあったが、今までに2回ほど見たという程度だ。ふつうに見られるものではない。
 そんな感じで、ときどきエサを換えながらずっとぶら下げ続けた。そして、今年になってまた設置したところ、ついに念願の白いアカボシも入ってくれた。
 今年は、蝶の数が少ない。暖冬のあとの寒波のためだと思うが、前回の広島でもギフの数がとても少なかった。全国的な影響かもしれない。我が家の周りでも、ただでさえ見かけることが少ない蝶の数が、今年は輪をかけて少なくなっている。そんな状況ではトラップに入る数も少ないだろう。と思っていたら、下旬になってそれまで肌寒かったのが、急に暖かくなった。すると、いきなりサトキマやアカボシが入るようになった。これから暖かい日が続けば、もっと入る数も増えるだろう。そして、なにより何が入るかわからないというのが魅力だ。ホシミスジはもちろん、ヒオドシだってはじめて見たし、滅多に見ないルリタやサトキマも確認できた。思いもよらぬ発見が続いたことになる。
 マンションなどはできないかもしれないが、小さな庭がある家に住んでいられるなら、ぜひ試してほしい。(我が家は一軒家ではあるが、小さくて庭も畳2つ分くらいしかない)こんな都会でも、いろいろな発見があるものだ。もう少し緑が多い地区なら、さらに面白い発見が待っているかもしれない。楽しみが増えますぞ。

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初めて入ったヒオドシチョウ。でも、2頭目は今のところ入ってくれない。


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サトキマダラヒカゲは一番たくさん入る。見かけることは滅多にないのにどこからやってくるのか不思議。


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驚きのホシミスジ。近くのユキヤナギで発生したのだろうが、飛んでるところを見たことはない。どこから来たのだろう?


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ルリタテハも滅多に見ない蝶だが、今までに2頭入っている。


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今年採れた白いアカボシゴマダラ。もともとは、これを狙って設置したのだが、おかげでいろいろな新知見があった。

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この記事へのコメント

柳瀬川の蝶好き人
2020年06月05日 17:47
愉しくブログを拝読させて頂きました。また八重山への採集旅行が出来ることを楽しみにしていきましょう😃今回ターゲットの白いアカボシですが、ここ埼玉でも五才の孫が捕まえていますので随分メジャーな蝶になった気がします。これからも楽しみに読ませて頂きます😅
シオシオ
2020年06月05日 18:06
柳瀬川の蝶好き人さん コメントありがとうございます

アカボシはどんどん生息範囲をひろげているようですね。はじめは鎌倉のあたりで出たたようですが、そこから北上して我が家のあたりにも侵入し、さらに北上して埼玉にも広がったようですね。千葉は意外と侵入が遅かったようですが、最近になって見られるようになったと聞きます。きっと、都心部を迂回して、埼玉経由で広がったのではないでしょうか?
放蝶由来ではありますが、いろいろ面白いこともわかります。邪険にせず見守りたいと思います。
柳瀬川の蝶好き人
2020年07月03日 23:36
ミナミコモン、ホリシャ、マルバネと与那国島の迷蝶は好調のようですね👍ブログの更新も楽しみにしています😅小生は10月の予定を立てて楽しく待っています😅
シオシオ
2020年07月04日 08:08

>柳瀬川の蝶好き人さん

コメントありがとうございます。昨日の成果をご存知ということは、のんのんさんのブログをご覧になったんですね。初日から素晴らしい成果で、この後何も採れなくても文句言えないくらいです。このところ、大した報告も出来なかったので、本来なら大喜びのブログ更新となるのですが、今年1年は採集記の更新は控えようと思っているので、残念ながら今回の様子はお知らせできません。この時期に出かけること自体、気分を害する方がいらっしゃるので、出かけてもそのことを書かないと決めました。今回の旅程もコロナ騒ぎの前から予約してあったものですが、ここへきて、また感染者が増大しています。やはり、出かけたことを発信すれば、気分を害する方がいるでしょう。大喜びの記事を私も書きたいのは山々ですが、今年1年は我慢します。ご了承ください。これから与那国二日目の探索に出かけます。更なる成果を期待します。